高原、記憶のイマーシブ
March, 2025
♦各文化財の解説を多言語で見ることができます。合わせてご覧ください。 高原町文化財多言語解説ホームページ:https://bunkachou2024r6.okukirishima.co.jp/
Background
本作は、文化庁の文化財多言語解説整備事業の一環で、訪日外国人旅行者数の増加及び訪日外国人旅行者が地域を訪れた際の地域での体験滞在の満足度を向上させるため、観光庁の施策と連携して、デジタル技術等を活用した文化財の多言語解説にかかるコンテンツの一部を制作したものです。
Concept
高原町の文化財とノンバーバルな体験
本企画は宮崎県高原町に伝わる3つの文化財をテーマにしたノンバーバルな体験を通じて、 文化財の再認識・保全意欲の向上・継承の促進を目的としており、高原町の文化財を単なる歴史的遺産ではなく、歴史を繋いできた人々の過去・現在・未来が交わる生きた記憶として再構築し、映像と空間演出を通じて、文化財が持つストーリーを体験者に新たな視点で感じてもらうことを目指しました。

言葉を超えた映像と音の世界で、過去と現在を繋ぐ想いのテクノロジーを体験をテーマにした本作品は、映像展示、アート作品展示の二つで構成されます。 映像展示は、「時を超える記憶と再生の物語」というテーマで、挟野神社や狭野神楽保存会の協力の元、フォトグラメトリー技術を利用し、宮崎県高原町に伝わる3つの文化財、「狭野のスギ並木」「狭野神社ブッポウソウ繁殖地」「高原の神舞(狭野神楽)」をノンバーバルに表現しました。


アート作品展示は、「狭野杉から生まれる未来のアート ― 新しい命の象徴」というテーマで、自然の再生力と人の手による創造性が融合し、形を変えながらもその生命の息吹を感じさせる狭野杉のアート作品を展示。 これらの作品は、自然の循環を讃えるものであり、未来への希望を表現したものでもあります。
Visual Design
フォトグラメトリーにより三次元化された狭野神社のランドスケープは最もミニマルな「点」のみで構成されています。この点で表現はブッポウソウの目線や記憶といった抽象的表現をヴィジュアライズしたものになります。


Workflow and Technical details
Photogrammetry
フォトグラメトリーとは、さまざまな角度から被写体を撮影し、そのデジタル画像を分析、および統合して立体的な3DCGモデルを作成する方法です。3Dフォトグラメトリーは3Dスキャナーなどの特別な機器は必要なく、通常の写真のみで生成できることが特徴です。本作では、一眼レフカメラを用いて、狭野神社の様々な場所を撮影し、3DCGモデルを構築しました。1つのシーンは数百枚の写真から構成されており1シーンあたりの情報量は膨大なものになりました。


Niagara Particle System
生成したフォトグラメトリーデータをUnrealEngineに取り込みNiagara Particle Systemを使用し、メッシュのポリゴン数に応じて色情報と位置情報を取得しました。 また、写真や記録映像なども同様に取り込みこちらは画像自体の色情報から点の集合を生成し表現することで記憶という抽象的なものを具体的に落とし込む手法として利用しています。

Bird Animation
高原町の文化財である狭野神社ブッポウソウ繁殖地であることを表現するうえで、ブッポウソウの実際の写真や映像資料を提供いただきそれらを元にブッポウソウの羽ばたきと滑空のアニメーションを作成しました。


Staging
Screen Design

Lighting
映像と連動する空間を生かす光の演出 – 日本家屋に溶け込むライティングデザイン
映像体験をより深く没入できる空間演出として、LEDテープライトとパーライトを映像とシンクロさせ、空間全体に広がる照明デザインを施しました。 日本家屋の持つ直線的な美しさと柔らかな空間の印象を損なわないよう、照明の配置や見え方に細やかな配慮をし、空間と調和するライティングを実現。全長35mにも及ぶLEDテープライトは梁に沿うように設置し、L字金具を用いることで間接照明として柔らかく光を拡散させています。 また、パーライトは障子の背後から照射し、障子越しに幻想的な光が差し込むように設計しました。 さらに、これらの照明の点灯パターンは映像のカラーや動きから抽出し、空間全体に映像が自然に溶け込むような演出を実現。 長さ35mのLEDテープライトと映像が連動することで、光と映像が一体となり、空間の広がりを感じさせる没入感のある体験を生み出しました。



没入感をもたらすため角度をつけて映像から光のパターンを抽出しました。
Display Design
空間に調和する照明設計 – 柔らかく展示を引き立てる什器デザイン
参集殿には照明や展示物を吊るすための天井設備がないため、展示物を効果的に照らす方法として、什器内部にバーライトを組み込みました。また、光をやわらかく拡散させるために半透明のアクリルパネルを採用し、展示物を優しく包み込むようなライティングを実現しています。 さらに、来場者には年配の方も多いことを考慮し、視認性や安全性に配慮して什器の高さを低めに設計。加えて、什器同士が横につながるデザインにすることで、空間全体に統一感を持たせ、スムーズに鑑賞できる環境を整えました。
Sound Design

映像とリンクした音の演出 – 伝統と革新を音で表現した没入体験
今回、宮崎出身の音楽人“山内達哉さん”のご協力のもと、映像に合わせた楽曲「霧島〜約束の地〜」を編曲・制作していただきました。メインテーマである楽曲の響きを大切にしながら、効果音が楽曲を邪魔しないよう、ボリューム調整やエフェクト処理を施し、音の調和にこだわりました。 また、特に、鳥の羽ばたきや風の音 などは、ただ連続的に流すのではなく、映像の流れに応じて適切なタイミングで鳴らすことで、視聴者の注意を引くよう工夫。鳥が登場するシーンでは音に緩急をつけ、場面ごとに異なるリズムで変化をつけました。さらに、鳥やオブジェクトの動きに合わせて音が左右に移動する よう設計することで、より没入感を高めています。 映像と音が一体となることで、よりリアルな体験が生まれ、宮崎の自然と伝統を感じることができる作品となりました。
Credit
Special Collaboration Music:Tatsuya Yamauchi Concept Design:Kaya Yamaki Concept Design:Suihou Matsumoto Concept Design:Takaya Nakamura Video Direction,Visual Creation,Movie Edit:Suihou Matsumoto Movie Edit:Takaya Nakamura Movie Edit:Yoh Murata Movie Edit:Kyo Imai Exhibition Direction:Yasushi Harada Exhibition Design:Yoh Murata CG Direction:Takahiko Inatomi CG Design:Takeshi Okumura CG Design:Kento Takizaki Sound Design,Mix:Gaku Okada Cinematographer:Yuki Kota Cinematographer:Keigo Fukada Title Design:Suihou Matsumoto Logo Design:Keisuke Miyajima Producer:Kaya Yamaki General supervision:Takamasa Inaba